
「問題行動が多くて……」
療育の現場でよく聞く言葉です。
しかしその行動は、本当に「問題」なのでしょうか。
ASDの子どもが示す行動の多くは、周囲を困らせるためではなく、本人が困っているサインです。
だからこそ私たちセラピストに求められるのは、行動を止めることではなく、その背景にある困りごとを適切に評価することです。
そしてもう一つ大切なのは、その評価をどのように保護者へ伝えるかという視点です。
評価が曖昧なままでは、伝わるのは「できていない姿」だけになります。
本記事では、問題行動を困りごととして捉え直し、それをどのように評価し、どのように共有していくのかを整理します。
問題行動は「結果」であって「原因」ではない
私たちはどうしても、目の前の行動に意識が向きます。
大きな声を出す、寝転ぶ、指示に反応しない。
その場では対応に追われますが、少し引いて見ると、その行動は原因ではなく結果であることが少なくありません。
例えば活動の切り替えで崩れてしまう子どもがいたとします。
こういった場合「切り替えが苦手ですね」と判断する前に、その場面を振り返る必要があります。
急な予定変更はなかったか、見通しは十分に示されていたか、刺激が強くなっていなかったか、疲労や不安は高まっていなかったか、などです。
もしかするとその子は「切り替え」が苦手なのではなく、「変化が予測できなくて」困っているのかもしれません。
指示が通らない場面でも、単に聞いていないのではなく、言語情報の処理に時間がかかっていたり、複数の情報を同時に保持することが難しかったりする可能性があります。
こだわり行動も、不安を下げるための自己調整であることがあります。
このように考えると、問題行動とは子どもが何かに困っている結果として表れているサインだと捉え直すことができます。
私たちの専門性は、行動を抑えることではなく、その行動が何を意味しているのかを読み取ることにあります。
困りごとを評価するための3つの視点
保護者に伝えるためには、私たち自身が整理できていなければなりません。
評価の際に意識したいのは、次の3つの視点です。
1.環境とのミスマッチ
困りは本人の特性だけでなく、環境との組み合わせで生まれます。
刺激が多すぎなかったか、見通しは示されていたか、待ち時間が長すぎなかったか、指示が抽象的すぎなかったかなど、「この子が難しい」のではなく、「この環境は合っていただろうか」と確認する作業が必要です。
2.発達特性の理解
行動を性格ややる気の問題にしないことが大切です。
感覚特性、ワーキングメモリ、実行機能、社会的理解などの観点から整理することで、「なぜその場面でストレスが高くなったのか」が見えてきます。
特性として整理できれば、支援の方向性も具体的になります。
もちろんこれを、保護者や他のスタッフに分かりやすく伝えていくこともセラピストの重要な役割の一つです。
3.情緒状態の把握
同じ子でも、その日の状態によって行動は変わります。
疲労や不安の蓄積、成功体験の有無なども影響します。
困りごとはいつも同じといったことはなく、その時々の状態に左右されるものです。
これらの3つを踏まえて整理すると、「何が起きたのか」「なぜ起きたと考えられるのか」「どうすれば楽になりそうか」まで言語化できるようになります。
評価が曖昧だと、どう伝わるか
評価が十分でないまま保護者に伝えると、「集団に入れません」「こだわりが強いです」「切り替えが苦手です」といった言葉になりがちです。
どれも事実ですが、その理由については説明されていません。
そのため保護者には「できていない姿」だけが強く残ってしまいます。
また、「ASDの特性ですね」とまとめてしまうと、理解したようで実は何も共有できていない状態になります。
保護者からすると、「ではどうすればいいのか」が見えないからです。
評価できていると、伝え方は変わる
同じ場面でも、評価が整理されていれば伝え方は変わります。
例えば「今日は切り替えで癇癪がありました」と伝えるのではなく、「予定より早く活動が変わった場面で止まってしまいましたね。急な変更で見通しが立たず、不安が強くなったようです。事前に知らせると安心できるかもしれません」と保護者や他のスタッフに共有します。
事実、解釈、支援の方向性をまとめて伝えることが大事です。
行動を報告するのではなく、お子さんの困りごとをみんなで共有するというイメージです。
その違いが、保護者(または他の支援者)との関係性を大きく左右します。
まとめ
問題行動を減らすことが支援の目的ではありません。
大切なのは、その背景にある困りごとを見つけることです。
何に負担を感じているのか、どこにミスマッチがあるのか、どうすればその子が楽になれるのか。
そこまで整理できて初めて評価と言えます。
そして評価ができていれば、保護者への伝え方は自然と変わります。
行動の報告(見たままを伝える)のではなく、困りごとを共有することにつながります。
ASDの子どもの行動は、環境の中で精一杯適応しようとする姿でもあえると言えます。
この視点を持ち、言葉にして伝えることこそ、「お子さんの代弁者」としての役割でもあり、セラピストの専門性でもあると言えると思います。
